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千葉地方裁判所 昭和48年(行ウ)7号 判決 1985年3月15日

千葉県市川市奉免町一一六番地二

原告

中山茂樹

右訴訟代理人弁護士

島田種次

右同

永山栞

千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号

被告

市川税務署長

三輪長正

右指定代理人

川野辺充子

右同

星川照

右同

吉田克己

右同

神作昌嗣

右同

山本高志

右同

大谷勉

右同

中村有希郎

主文

一  原告の主位的訴えを却下する。

二  原告の予備的請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的請求)

被告が原告の昭和四三年分の所得税に関し、昭和四五年一二月二四日付でした雑所得金額を金一四九六万六六七九円とする更正処分のうち、金一八四万八六七九円を超える部分ならびに同日付の過少申告加算税を金三七万八三〇〇円と賦課決定した処分のうち金二万四一〇〇円を超える部分はいずれもこれを取消す。

2  (予備的請求)

被告が原告の昭和四三年分の所得税に関し、昭和四五年一二月二四日付でなした更正処分のうち、金七六七万八八一九円を超える総所得金額に係る部分ならびに同日付の過少申告加算税を金三七万八三〇〇円と賦課決定した処分中金二万四一〇〇円を超える部分はいずれもこれを取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  所得税の申告から裁決に至る経緯

(一) 原告は被告に対し、昭和四四年三月一四日別表1確定申告の項記載のとおり確定申告をした。

(二) 原告は右同日、昭和四三年に別表記載のとおり別表2物件番号1、2の農地(以下「本件土地(一)(二)」という。)を譲渡し、その買換資産として同年中に別表4記載(一)ないし(八)の農地を取得したので、右譲渡による所得を租税特別措置法(昭和四三年四月二〇日法律二三号により改正されたもので同四四年四月八日法律一五号に改正前のもの。以下「措置法」という。)三八条の六第一項の事業用資産の買換の場合の特例を適用されるべき所得として被告に申告し、かつ、その譲渡所得計算明細書を提出した。

(三) 被告は原告の右申告について、昭和四五年一二月二四日別表1「更正」の項記載のとおりの更正処分(以下「本件更正」という。)ならびに過少申告加算税(以下「加算税」という。)三七万八三〇〇円の賦課決定(以下「本件決定」といい、「右更正処分及び賦課決定をまとめて、「本件処分」という。)をした。

(四) 原告は本件処分に対し、昭和四六年二月一〇日付被告に異議申立をなしたが、被告は同年三月三日付を以てこの申立を棄却する旨の決定をしたので、更にこれを不服として同月二九日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は同四八年二月九日付を以てこの請求を棄却する裁決をなし、そのころ裁決書謄本が原告に送達された。

2  しかしながら、本件更正には右土地の譲渡を雑所得として認定した違法があるから、原告は主位的に本件更正の雑所得金額一四九六万六六七九円のうち金一八四万八六七九円を超える部分及び本件決定のうちこれに対応する部分の取消しを求め、仮に右請求が認められないとしても予備的に本件更正のうち総所得金額七六七万八八一九円を超える部分及び本件決定のうち右に対応する部分の取消しを求める。

二  被告の答弁及び主張

1  本案前の主張

主位的請求は、以下の理由により不適法として却下されるべきものである。すなわち、

(一) 被告は雑所得金額について各別に更正処分を行なったものではないので、存在しない行政処分の取消しを求める原告の主位的請求は不適法である。

(二) 国税通則法、所得税法の定めによれば、課税標準たる総所得金額の計算の前提たるべき雑所得の金額を取上げてこれのみについて更正処分を行いえないものである。本件についても被告は原告の雑所得の金額を含む各種所得の合計額としての総所得金額について更正処分を行なったものである。更正通知書には、所得税法一五四条二項に基づきその内訳を附記したにすぎない。

2  請求原因に対する認否

請求原因1(一)、(三)、(四)の事実は認める。

同1(二)の事実のうち、原告主張の日に主張の内容の申告があり、譲渡所得計算明細書の提出があったことは認める。別表3、4に対する認否は同表認否欄記載のとおであり、別表1(一)ないし(八)の土地が買換資産であるとの点は争う。

3  被告の主張

本件更正及び本件決定の課税根拠は次のとおりであり、本件処分は適法である。

(一) 原告の昭和四三年分の総所得金額とその内訳は別表1の被告主張の項記載のとおりであり、うち雑所得中土地譲渡による所得を算出した明細は別表2記載(以下、同表記載の土地を「本件各土地」という。)のとおりであって、右のように算出した根拠は次のとおりである。なお他の所得金額については争いがない。

(1) 原告は昭和四一年から同四四年までの間次のとおり前後二八回に亘り本件土地(一)(二)を含む土地、建物の販売をし、それにより三億四五一五万五四二八円の譲渡益を得ている。

<省略>

(2) 右取引の相手方は原告が事実上の主宰者となっている訴外日興商事株式会社(以下「訴外会社」という。)であり、その取引高は原告の右期間における土地譲渡金額の約七七パーセントを占めている。

(3) 原告は右のうち販売した市川市曽谷所在の各土地を取得するに当たり、右土地に隣接する土地を訴外会社をして同時に取得せしめ、共に埋立整地したうえほぼ同時期に分譲しているが、原告は取得した土地の大部分を訴外会社へ譲り渡しており、このことは不動産業者である訴外会社が自己の名において宅地転用の許可を受けることが難しいため原告が転売目的で保有し、農地法の制約の緩和、措置法三八条の六適用の利を得ようとしたものである。

(4) 訴外会社は、昭和三九年一〇月一三日に原告及びその同族関係者らの出資によって設立された同族会社で、同社の代表取締役は登記上原告の義妹(現在は原告の妻)である皆川久江になっているが、同社の事実上の経営者は原告である。

原告は金融機関に対し、訴外会社と相互に連帯保証をし、訴外会社のために物上保証人となり、自己の名義で金融機関から借り入れた金員を訴外会社の事業資金として運用させるなど不動産業者たる訴外会社と一体的な関係にあり、曽谷地区の土地譲渡に際し訴外会社が従前から締結していた金融機関との提携ローン契約に原告自ら新たに参加し、両者が連帯保証人となるなど土地の売買について金融機関と提携して不動産取引による利得を図っている。

(5) 別表2及び5の各土地のうち松戸市所在の二筆の土地を除いてはいずれも埋立整地を行ない、地目を宅地に変更し、さらに曽谷地区の土地にあっては売却に便利な地積に分筆し各境界を確定したうえ、各土地の分譲に当たっては、買受人が希望すれば原告及び訴外会社が連帯保証人となって金融機関から容易に土地購入のため融資が得られるようにするなど右土地の譲渡は偶発的、臨時的のものではない。

(6) 曽谷地区の土地のうち別表5の物件番号1及び3ないし10の土地の分譲に当たり建売分譲用の建物の設計は原告がこれをし、工務店に一括依頼している。

(7) 別表2及び5記載の各土地のうち別表2の2ないし6の土地を除き、いずれも取得後短期間のうちに売却されており、その大部分が、取得当時既に市街化が予測される地域に存したもので到底長期間の農耕の用に供しうる土地ではなかった。

(二) ところで所得税法三三条二項一号にいう所得に該当するか否かの判断は、(イ)譲渡人の既住における資産の売買回数、数量、金額、相手方(ロ)売買のための資金繰り(ハ)売買を行なうための施設、売買のための広告、宣伝の方法、(ニ)当該資産の取得、保有の状況等を総合してなされるべきところ、以上の原告の取引の状況に鑑みると原告は市川市周辺の農地が宅地化する情勢の中で農地の値上りによる利益の獲得を見し、昭和四一年以降自己の支配下にある訴外会社と一体となって継続反覆して土地の売買を行ない、多額の利益を収めているもので原告が本訴で争う各土地の譲渡も右取引の一環としてなされたものである。

(三) 従って、本件各土地の譲渡による所得は所得税法三三条二項所定の所得に当たることは明らかであるから、これを同法三五条の雑所得としてなした本件処分は正当である。

三  原告の主張

1  本案前の答弁について

被告は更正通知書に記載してあるように金一四九六万六六七九円一口を雑所得として更正したものである。所得税法一五四条一項、同法一二〇条一項九号によれば、所得税法における更正は「雑所得の金額」についてもなしうると定められており、さらに取消訴訟において原告が争う意思のない雑所得以外の税額までも含めた総所得金額を争う必要は全くない。

2  被告の主張(一)冒頭の事実及び(1)の事実は認める。ただし、原告は将来の農業経営の目的を達するため大量の農地を買換え取得しようとしたので、一時的に代替地を取得して保有しておくことも必要であり、その売買、期間が多数回、長期に亘るのはやむをえないものである。

3  同(2)、(3)の事実は認める。ただし、訴外会社の営業上有利である場合、原告が同社に譲渡するのは当然であり、それゆえに原告の行為が営利性を帯びるものではない。

不動産譲渡による所得の性質は行為者が不動産販売を目的とする会社の主宰者であるなどのように行為者によって定まるのではなく、行為の性質そのものによって定まるものである。その際土地の取引の回数・量の多寡で定まるのではなく具体的に諸般の事情を勘案して判断すべきである。

本件では本件土地(一)は取得後四年間、本件土地(二)は一〇年間耕作していたものであり、現況も同表地目欄記載のとおりであって、別表4(一)ないし(八)の各土地は取得後耕作しているものであるからいずれも転売を目的で取得したとはいえない。

4  同(4)の事実は認める。ただし、原告が事業用資産の譲渡につき訴外会社と一体的な関係にあること及び土地売買につき原告が不動産取引による利得を図っていることは否認する。

5  同(5)の事実のうち、松戸市所在の土地を除くその余の土地の全部を埋立整地し、これらの地目を宅地に変更したことは否認するが、その余の事実は認める。

6  同(6)の事実は認める。

7  同(7)の事実のうち、別表2及び5記載の土地の大部分が取得当時既に市街化することが予測されており、長期間にわたり農耕の用に供しうる土地でなかったことは否認し、その余の事実は認める。

8  同(二)の主張は争う。被告主張の根拠は、原告の昭和四一年以降における土地の譲渡・取得に関するものであるがこれらの事実をもってこれらの日時以前である同三三年、三九年に農業の用に供する目的をもって取得し、耕作していた土地の譲渡について営利性を推測することは許されない。

9  本件土地(一)、(二)の譲渡は別表4(一)ないし(八)の土地を買換えるため農家である原告の事業資産たる農地を売却したものので、営利を目的としたものではないから、右譲渡による所得は所得税法三三条一項に規定する譲渡所得に該当し、かつ、措置法三八条の六第一項の適用を受けるもので、事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例として課税の対象とはならないものである。

その根拠は次の(一)及び(二)のとおりである。

(一) 原告は農業を営む者である。

(1) 原告の家族構成

原告は訴外亡父中山市兵衛の許で農業の手伝いをしていたが、昭和二三年市川市の農家の長女訴外皆川ちかと婚姻し、同二七年七月に長男一夫が出生し、同二八年父と別居することとなり、同二九年六月には次男明夫が、同三一年二月に三男光夫が、同三四年三月に長女美代子がそれぞれ出生した。

(2) 農耕地

原告の実家は父祖伝来の農家で、次男である原告は、長男、三男と同様農業を営むこととしたため、同家で有していた三万二七五〇平方メートルの土地のうち七四〇一平方メートルを昭和二四年から同三二年までは亡父から贈与された。

原告はそのほかにも農地を取得し農耕地面積は次のとおり増加した。

四二年 自作 田 三万三二〇二平方メートル

畑 七五六三平方メートル

小作 田 一九七一平方メートル

計 四万二七三六平方メートル

四三年 自作 田 三万二六一五平方メートル

畑 一万二四六三平方メートル

小作 田 一九七一平方メートル

計 四万七〇四九平方メートル

四四年 自作 田 五万二九二二平方メートル

畑 七一九二平方メートル

小作 田 一九七一平方メートル

計 六万二〇八五平方メートル

(右はいずれも各年度八月一日現在の数字)

(3) 農業用器具

原告は農耕の用に供するため数名の雇人を使用するとともに、昭和四三年には大型トラクター一台及びコンバイン一台その他農器具を次々購入し、同四五年にはさらに耕運機一台、スプレヤー、噴霧機、乾燥機、揚水ポンプ、脱穀用発動機三台を備えるに至った。

(4) 原告の農業精励

原告は市川市下貝塚町九三番地に生活の本拠を定めて農業に従事してきたが、農業経営の効率化を計るため昭和二九年から三二年にかけて「苗代の速成方法」「梨の人工交配の合理化」を研究実施するなど農業に精励したので、同三三年市川市農業経営改善共進会長から表彰を受けた。

(5) 供米実績

原告は昭和四五年ころ年間二五〇日を超えて農業に従事していたが、同四二年の米政府売渡量は五一六〇キログラム、同四三年、同四四年はいずれも三〇〇〇キログラムで売渡量の市川市における順位は一位または二位であった。ただし、同四五年から同四八年までは米生産調整等の農政に従い休耕した。

(6) 将来の農業経営展望

原告には三名の男子があり、長男には稲越、曽谷方面で、次男には鎌ヶ谷・松戸方面で、三男には大野、北方、柏井方面でそれぞれ農業を営ませることにしたが、農業経営の効率化のため右方面に農地を集中的に取得しようとした。しかし、求める面積が広大であり、かつ、農家の農地に対する愛着心が障碍となり、その取得に昭和四一年以降四年間の歳月を要した。

(7) 農業所得申告

原告は昭和二四年に市川市で農業を営むようになってから現在まで毎年当該年度の農業所得の確定申告を行なっている。

(二) 原告が別表3、4りとおり譲渡し、取得した土地はいずれも事業用資産である。

(1) 本件土地(一)について

原告は昭和三九年四月二二日に訴外鈴木正平が当時田として耕作していた農地を同人から耕作目的で取得した。

原告は右土地を埋め立て、畑として四年間にわたって耕作していたが、附近が宅地化し、農薬散布・施肥に困難を来したため昭和四三年二月一五日訴外会社にこれを譲り渡したもので、同社に譲渡後これを分筆し(同年四月一九日登記)移転登記手続を(同四四年四月二二日登記)したものである。

また、右土地の地目が登記簿上田から宅地に地目変更されたのは同四三年一一月一五日である。

住宅地の中での野菜作りは収益の面でも合理性があり、現実に間々あることであり、周囲が宅地であることをもってその農地の取得を営利目的と判断することはできない。

(2) 本件土地(二)について

原告は昭和三三年一二月一九日訴外石井正一が当時田として耕作していた農地を同人から農地拡張のため取得し、同三八年一〇月一五日市川市農業委員会から田から畑への地類変換の承認を得て、これを埋め立て畑にして耕作した。

ところが原告は、昭和四二年六月一九日に市川市奉免町一一六番地二に転居して右土地は住居から遠方となったので他の農地と買換えるため同四三年二月一五日訴外会社に譲渡し、同四六年一〇月二二日所有権移転登記を経由した。訴外会社は右土地を分筆し、同四六年九月九日原告名義で分筆登記手続をし、同年一〇月八日に畑から宅地に地目変更の登記手続をした。

原告が昭和三三年に本件土地を取得した当時は地価値上りの徴候すらなく、これを予想して取得し一〇年間も耕作していたことなどあり得ない。

以上のとおり原告は右土地を取得後一〇年間も耕作したうえ譲渡したもので少くとも右土地の譲渡益金四九三万三七八四円は所得税法三三条一項の譲渡所得に該当し、措置法三八条の六第一項の適用を受けるべきである(別表3の土地の地積合計七九九平方メートル、譲渡価格合計金一四四七万五〇〇〇円であるから一平方メートル当りの価額は金一万八一一六円となる。本件土地(二)の譲渡価額は一万八一一六円に地積二七四平方メートルを乗じた金四九六万三七八四円であるから右土地の取得価額金三万円を控除した金四九三万三七八四円が右土地の譲渡益金となる。)

(3) 別表4(一)の土地について

原告は昭和四三年三月五日訴外湯浅富蔵が田として耕作していた農地を同人から取得した。

原告は右土地に隣接した耕作地があるのでこれを取得したものである。

原告は譲受後昭和五三年に平田学園学校用地として買収されるまでこれを耕作していたもので、現在右土地は市街化調整区域となっている。

(4) 別表4(二)の土地について

原告は昭和四三年四月四日訴外杉山新之助が畑として耕作していた農地を訴外湯浅富雄から取得した。原告は本件土地(一)(二)の代替地としてこれを取得し、以後原告において右土地を耕作している。右土地は現在市街化調整区域となっている。

(5) 別表4ないし(八)の土地について

原告は昭和四三年六月二九日訴外石井確吉が畑として耕作していた農地を訴外株式会社京浜商事から取得した。

原告は、本件土地(一)(二)の代替地としてこれを取得したもので以後原告において右土地を耕作している。

10  本件土地の譲渡益が雑所得に該当しないことについて

(一) 昭和二二年改正以後の所得税法について

(1) 昭和四三年分の所得に適用される所得税法(以下「現行法」という。)において、土地譲渡益はその発生の状況に応じて

譲渡所得

事業所得

雑所得

の三種の所得に分類されると解されている。しかし、右所得の分類基準は、現行法の規定が明確化を欠くため、具体的事案の所得分類につき、実務上困難な問題を提供している。特に、土地譲渡益を雑所得に分類する要請は、昭和四〇年代より顕著となった土地投機利益に対する課税上の処遇に起因するのであったが、国税庁は既存法規の改正をせずして、雑所得の範囲を拡張する通達を発して右要請に対応しようとした。この通達は、現行法を不当に拡張解釈したものと認められるので、ここに、所得分類に対する制定法の沿革と国税庁通達の沿革を検討し、所得分類基準の妥当性について主張する。

(2) 所得分類に関する税法の改正経過

戦後、所得税法(以下「法」という。)は、昭和二二年に全文の改正がなされ(昭二二・三・三一法律二七号)その後、各種控除額、税率等の部分的改正が毎年おこなわれていたが、大改正としては、昭和二五年の所謂シャープ勧告による改正(昭二五・法律七一号)と、同四〇年の全文改正(昭四〇・法律三三号)である。

<1> 昭和二二年改正所得税法の所得分類は、

(1)利子所得(2)配当所得(3)臨時配当所得(4)給与所得(5)退職所得(6)山林所得(7)譲渡所得(8)一時所得(9)事業等所得の九分類(法九条一項一号ないし九号)であった。

「譲渡所得」は資産の譲渡に因る所得であるが、このうちから、山林の伐採又は譲渡に因る所得と営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得とが除かれている(法九条一項七号)。

「事業等所得」は右の(1)から(8)までの所得以外の所得である(法九条一項九号)。

<2> 昭和二五年改正の所得税法の所得分類は、

(1)利子所得(2)配当所得(3)不動産所得(4)事業所得(5)給与所得(6)退職所得(7)山林所得(8)譲渡所得(9)一時所得(10)雑所得

の一〇分類(法九条一項一号ないし一〇号)となった。この分類改正の内容は、

従前の「臨時配当所得」のうち一部は配当所得とみなされ、他の部分は、法人税の課税理論の変更に伴い、所得税の課税対象から除外されることとなったため、この分類は削除された。

従前の「事業等所得」が分割され、営利を目的とする継続的行為から生じた所得(事業等所得)のうち、事業から生じたものは「事業所得」、不動産の賃貸から生じたものは「不動産所得」、その他のものは「雑所得」となった。

<3> その後においては、所得分類に関しての改正はない。

(3) 土地の譲渡益の課税額の変遷

<1> 譲渡益が「譲渡所得」に該当する場合

(イ) 昭和二二年の税法においては所得額の二分の一が課税対象とされ(法九条一項七号)他の所得と総合課税された。

(ロ) 昭和二五年の改正により所得の全額が総合課税されたが、譲渡所得額の部分の税率適用は五年間の平均税率を適用することとされた(法九条一項八号、同一四条、同一四条の二)。

(ハ) 昭和三九年の改正において、所得額が特別控除額を差引いた残額のうち、土地所有期間三年以内に対応する部分はその全額を課税対象とし、土地所有期間三年を越えるものに対応する部分は、その二分の一を課税対象とし総合課税の対象とされた(法二二条一項二号、法三三条三項)。

(ニ) 以後、租税特別措置法により暫定的な課税措置はとられているが、所得税法自体の改正はない。

<2> 譲渡益が事業所得等に分類される場合は、所得全額が課税対象となり総合課税の対象となっているが、これは昭和二二年以後現行法まで一貫している。

(4) 土地譲渡益の所得分類についての税法の規定

<1> 昭和二二年の税法においては、

資産の譲渡に因る所得は譲渡所得とされ、山林の伐採又は譲渡に因る所得と営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得とは例外的に譲渡所得から除かれることと規定されていたので、土地の譲渡益は、原則的には譲渡所得その他の場合は事業等所得に分類されることとなっていた。

<2> 昭和二五年の改正においては、

事業等所得が、事業所得、不動産所得、雑所得に分割されたので、土地譲渡益は譲渡所得と事業所得のいずれかに分類されることになったが、雑所得に分類される土地譲渡益があるかどうかについては必ずしも明らかではない。

<3> 現行法は、昭和四〇年に改正されたが、

(イ) 法三三条は、譲渡所得から除かれる資産の譲渡益として「たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」と規定(同条二項一号)したので、この結果、土地の譲渡益について譲渡所得、事業所得以外の所得分類に属する所得の存在が税法上明らかにされたのである。

(ロ) 法三三条の「たな卸資産」とは「事業所得を生すべき事業に係る商品等」を指す(法二条一項一六号)のであるが、この「事業」の定義については法施行令六三条一項一号から一一号までに事業名を列挙し、同一二号に「前各号に掲げるもののほか対価を得て継続的に行なう事業」と規定している。従って、この規定からすれば、事業の本質は対価を得て継続的に行うものであることが理解できるのであるが、しかし「事業」とは、具体的に如何なる事実を具備することを要するかについては法の規定上は明らかでなく、結局社会通念に依存しなければならないのである。

そこで、社会通念上事業と称されるものは、客観的に事業と認識される程度の人的、物的設備を具備することが必要であると解されるので、右人的、物的設備を具備し、対価を得て(営利性)継続的に行なわれる行為が一般的には事業と認められることとなるであろう。

(ハ) 譲渡所得から除外される資産の譲渡益は、改正前の規定は「営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得」と規定していたが、同意義の規定が改正法においては「たな卸資産の譲渡その他営利を目的として・・・」と規定したので、たな卸資産の譲渡が「営利を目的として継続的に行われる資産譲渡」の典型的なものであることが明らかにされた。このたな卸資産とは、事業者の事業に係る商品等(法二条一項一六号)を指すものであり、この商品は転売を目的として取得し所有する資産を意味し、転売を目的としない資産はこれには含まれない。そして、この商品であるか否かは、その物の物理的性格による区別ではなく、その物の用途による区別である。例えば、不動産業者の所有する土地のうち、転売目的で取得し所有するものはたな卸資産であり、自己の店舗に使用する目的で取得したものは固定資産である。従って、法三三条二項一号の「営利を目的として継続的に行われる資産譲渡」の対象となる資産は、その典型である「たな卸資産」に準ずるもの、すなわち、転売目的で取得し所有する資産であるべきであり、転売目的で取得した土地等の資産は、右「営利を目的とする継続的譲渡」の対象とはなり得ないと解すべきである。

(ニ) 以上で明らかなように「営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡行為」が、事業としての人的物的施設を伴い社会通念上事業と認められる場合においては、その譲渡益は事業所得に分類され、同様の行為が事業と認められない場合には雑所得と分類されると解される。例えば、不動産業者を例にとれば、かかる業者は転売の目的で土地等の不動産を取得し所有し、これを転売して利益をあげる行為を反覆継続しているのであり、かかる行為が、法三三条二項一号の営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡行為に該当するものである。そして、かかる行為が人的物的施設を伴い社会通念により事業と認められた場合における所得が、いわゆる事業所得となり、同様の行為を行なう者であっても、社会通念にしたがって事業としての人的物的施設等を具備しない場合における所得は雑所得と認められると解されることとなる。これを要するに、事業所得か雑所得かの分類基準は、行為自体の差異ではなく、営利、継続行為外の他の事情によるものと言うことができるのである。

(二) 国税庁通達の性格と、雑所得に関する通達の推移

(1) 国税庁通達は管下職員に対する訓令で、事務処理上の規範として部内職員を拘束するものであるが、対外的には法規としての拘束力のないことはいうまでもない。しかしながら、それが公開通達として一般に公開されている場合には、納税者に対し申告納税につき指導的役割を果しているものであって、個別事業に対する税務官庁の個別的指導と同様の性格をもつものというべきであり、従って、税務官庁が公開通達に反し、納税者に不利益な行政処分をすることは、違法であるとされているところである(昭三三・五・二四最高裁(一小)民集一二巻八号一一五号、昭四五・五・七大阪地裁行裁例集二一巻五号七九頁、昭四九・五・三一富山地裁行裁例集三五巻五号六五五頁)。

(2) 土地譲渡益が、雑所得に該当するか否かについての国税庁の通達の変遷を述べると、

<1> 昭和二五年の法改正により「雑所得」の所得分類が新設されたことは既述のとおりであり、国税庁は右法改正に伴って所得税法の基本通達を公開し、雑所得の範囲に包含されるという見解はその片鱗すらも示されていない。

すなわち、この通達一五一項は、雑所得に該当するものとして、

a 非営業貸金の利子

b 郵便年金

c 社会保険の養老年金

d 身元保証金の利子

e 自己の庭園に生じた竹、たけのこ、まつたけ等の所得で事業所得と認められないもの

等であるとしていた。

右通達は雑所得に該当する所得を例示的列挙の形式で表現しているが、当時において、国税庁及び法立案者たる大蔵省が、雑所得と該当するものと認識していたすべての所得は右通達で列挙していたと認められる。

従って、当時、税務当局は、土地譲渡益は、原則として譲渡所得に分類され、土地譲渡を業とする者の土地譲渡益のみは事業所得に分類されるものという法解釈を有していたものと考えられるのである。

(註)

「雑所得」は、法九条一項一〇号において、「前各号以外の所得」である旨を定義しているが、法は「所得」の包括概念につき直接の規定を欠いていた。従って、所得の包括概念は、実定法規の全体の構造と、租税の目的とに即し、一般の理論にしたがって探究すべきものと解されていたのである。このように、所得の包括概念が法規上不明確であるとすれば、右所得の残余概念ともいうべき雑所得の概念乃至範囲についても自ら明らかでなく、かくては、一般納税者に自主的な申告納税を期待することはもちろん、個別事業を処理する税務職員に統一的な法の執行を期待することは困難であるので、国税庁は、その範囲等を通達をもって明らかにしたものであるから、右通達が雑所得の範囲を列挙したことは、その当時予定しまたは認識していた具体例のすべてを列挙したものと考えられるのである。

<2>(イ) 国税庁通達において土地譲渡益が雑所得に分類されることがあり得る旨の見解を示したのは、昭和四四年である。すなわち、同年直審(所)二四号通達三三―三項は、

固定資産である不動産の譲渡による所得であっても、当該不動産を相当の期間にわたり継続して譲渡している者の当該不動産の譲渡による所得は法三三条二項一号に掲げる所得(註―たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産譲渡による所得)に該当し、譲渡所得には含まれないが、きわめて長期間引き続き所有していた不動産(販売目的で取得したものを除き)の譲渡による所得は、譲渡所得に該当するものとして取り扱う。

との見解を示した。

(ロ) しかし、右通達は、法解釈を逸脱した違法の通達である。すなわち、

A 右通達は、固定資産たる土地の譲渡益が事業所得または雑所得となることを定めているが、そのようなことは法的に不可能である。

固定資産たる土地は、たな卸資産たる土地に対立する概念であることは前述のとおりである(法二条一項一八号同施行令五条一項一号)。

土地の譲渡益のうち、譲渡所得の分類から除かれるのは、たな卸資産たる土地譲渡益と、それに準ずる譲渡益である(法三三条二項一号)ところ、「たな卸資産たる土地」に対立する「固定資産たる土地」は、たな卸資産に準する資産である筈はなく、従って、その譲渡益は当然譲渡所得に分類されるものである。故に右固定資産の譲渡益が、事業所得または雑所得に分類される余地は、理論的に全く存在しない。

B 右通達は、「相当の期間にわたる継続的譲渡行為が、即「営利と目的をもつ継続的譲渡行為」に該当すると断定しているのであるが、継続的譲渡行為の営利性を単なる行為期間の長短によって立証することは不可能な筈である。例えば、事業の用に供していた多数の土地を売却するに当たり、一時に売却すればその譲渡益が譲渡所得となり、買受人がないために数年にわたり順次売却する場合は譲渡所得とはならず、その譲渡益の全額が総合課説の対象とされるとすれば、譲渡所得の立法趣旨に反するのである。

(註)譲渡所得の分類を法が設けたのは、資産の譲渡所得は、数年間の所有期間に毎年発生する所得が譲渡時に一時に実現する点において、経常所得と、その性質上租税負担能力の差があり、その全額を経常所得と総合し累進課税の対象とすることは適当でないから、特別な課税額の算定をする必要から出たものである。従って、譲渡所得から除かれる資産譲渡益の解釈に際しては、右租税法の立法趣旨に即応するよう考慮することが必要である。

C 右通達は、きわめて長期間引き続き所有していた不動産の譲渡益は譲渡所得として取扱うと定めているが、右通達の反面解釈においては、短期間所有の不動産譲渡益は譲渡所得に該当しないこととなり、その解釈は法三三条二項一号の規定の趣旨に反する。すなわち、右法規定は、譲渡所得から除外するか否かにつき譲渡資産の所有期間の長短を要件としていない。のみならず、法三三条三項一号は、所有期間三年以内の資産の短期間所有による譲渡益が譲渡所得に該当することを予定しているのである。よって、右通達は表現上適切を欠き法の解釈を逸脱しているという批判は免れない。

(ハ) 右通達は、前述のとおり違法は明白であるが、右通達の違法性を除くとすれば、次の通り訂正すべきである。すなわち、

不動産の譲渡による所得であっても、当該不動産を相当の期間にわたり継続して譲渡している者の当該不動産による所得は、特段の事情がない限り、営利の目的が推定されるから譲渡所得から除いて取扱うものとするが、きわめて長期間引き続き所有していた不動産(販売目的で取得したものを除き)の譲渡による所得は、営利の目的が推定できないから譲渡所得として取扱う。

<3>(イ) 昭和四四年直審(所)二四号通達三三―四項は、

固定資産である土地に造成工事をしたり、その地上に建売家屋を建築したりして譲渡した場合においては、その譲渡益全部が事業所得又は雑所得となると断定するとともに、この場合においても、当該土地をきわめて長期間引き続き所有していた場合には、当該土地部分の譲渡益に対応する部分は譲渡所得に該当するものとして取り扱う旨を定めた。

(ロ) しかしながら、固定資産たる土地の譲渡益は法三三条一項および同法二項の規定により当然に譲渡所得となるものであって、所有期間の長短はその要件でないことは前項に述べたとおりである。

この土地に対し、造成工事を施して譲渡した場合の益金が、全部事業所得又は雑所得となるとする右通達の見解は法的根拠を欠く暴論である。すなわち、土地の譲渡益が事業所得又は雑所得となるためには、先ず当該譲渡益が譲渡所得に該当しないことが前提であり、そのためには、当該土地がたな卸資産又はこれに準ずる資産であることを要する(法三三条二項一号)ところ、固定資産たる土地は前項に述べたとおり税法上たな卸資産に対立する性格をもつ資産であって、たな卸資産に準ずると解することはできない。従って、通達の見解のように、譲渡益金の全部が事業所得又は雑所得となるためには、譲渡時までに固定資産たる土地がたな卸資産又はこれに準ずる資産に該当するよう変更されていることが理論的に必要である。しかしながら、たな卸資産の本質は既述のとおり営利目的で取得した資産、すなわち、転売益を目的として取得した資産であるのに対し、固定資産たる土地は、事業の用に供する目的で取得した資産又は自己の用に供することを目的として取得した資産であって、右両者は取得の動機により区別される資産区分なのである。故に固定資産たる土地が、造成工事をなしたことにより取得時に遡及してたな卸資産に変貌することは理論的にはあり得ないのであって、若し税法適用上右変貌を擬制するためには明確な擬制規定を必要とすることは論をまたない。ところが、現行法においては右擬制規定は存在しない。

従って、右通達は現行法に違反するといわざるを得ないのである。

<4>(イ) 国税庁の所得税法基本通達は、昭和四五年に全文改正がなされて同年九月一日から施行され、原則的には昭和四五年分所得からこれが適用されることとなったが、右新基本通達は、雑所得の範囲を著しく拡大した。すなわち、同通達三五―二項は、

「不動産の継続的売買による所得は事業から生じたと認められるものを除き雑所得に該当する」と断定している。

(ロ) 右通達は、法三三条二項一号を無視したものであって、もとより違法なものである。

すなわち、譲渡所得から除外される資産の譲渡の所得は「営利を目的として継続的に行われる資産譲渡による所得」であって、営利を目的としない単なる不動産の継続的売買による所得は、譲渡所得から除かれないことは法三三条二項一号により明らかである。譲渡所得に含まれる所得が更に雑所得に該当することはあり得ない。これはきわめて明白な理である。

(三) 本件土地の譲渡により所得が雑所得に該当しない理由

(1) 本件土地の譲渡益は譲渡所得に該当することは、法の解釈により明らかで、従って、雑所得には該当しない。

法三三条二項一号は「営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」が、譲渡所得から除かれることを規定する。

この規定の解釈については、既述のとおり転売を目的として取得した資産を反覆的に譲渡した所得を譲渡所得から除く意味であって、この除かれた所得は事業所得又は雑所得として分類されるのである。

本件における譲渡資産は、原告の農業の用に供する目的をもって取得した固定資産であり、現に譲渡時まで、これを農業の用に供していたのである。また、譲渡資産の譲渡代金は農業用地の買換に全額使用しており、而かもその土地は引続き農業の用に供しているのであるから、反覆的に譲渡する意図はないものである。

本件土地の買換に際しては、取得資産の取得がその性質上長期間にわたりかつ取得回数が多いという事実はあるが、これは農地取得の性質から必然的に生ずる結果であって、土地売買の継続性とは何等関係がないものである。

不動産業者であっても、その固定資産を譲渡した場合の譲渡益は、譲渡所得であって事業所得でないことは論をまたず、その所得分類は譲渡資産の性質ごとに断定すべきものであるから、原告が他に雑所得に該当する土地の譲渡をした事実がある場合においても、原告の他の事業用資産の譲渡益は譲渡所得に分類されるべきことが所得税法の立法の趣旨であることを留意すべきである。

(2) 本件土地の譲渡益を雑所得と認定した処分は、課税当局による指導に反する納税者の不利益処分に該当して違法である。本件土地の譲渡は昭和四三年中になされているが、原告の右譲渡行為時においては旧通達一五一・一〇三・一〇四のみが公開されていた。これによれば、国税庁は土地の譲渡益が雑所得となるという見解は示していない。国税庁通達が、納税者に対する個別指導としての実体を有することは既に述べたとおりであり、これに反する不利益処分は違法であることを既に述べたところである。

本件土地の譲渡益を更正した被告の処分は昭和四五年一二月二四日になされており、それは新基本通達の公開後のことであるところ、新通達附則は、その施行日を昭和四五年九月一日と定め、適用時期は別段の定めがない限り昭和四五年分以後の所得に適用し、昭和四四年分以前の所得についてはなお従前の例によると規定している。原告が主張する雑所得について別段の定めはないので、被告が本件につき、新基本通達により更正したとすれば、本件処分は国税庁訓令違反の処分ともなるのである。

なお昭和四四年直審(所)二四号通達についても右と同様である。

四  原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張9(一)(1)ないし(5)の事実のうち原告の家族構成は認めるがその余の事実は知らない。

2  同(6)の事実のうち原告に三名の男子があること、原告が稲越・曽谷・鎌ヶ谷・松戸・大野・北方・柏井方面の土地を集中的に取得したことは認める。取得に四年間を要した事実は知らない。その余の事実は否認する。

3  同(7)の事実のうち、原告が昭和四一年から同四六年まで農業所得の確定申告をしたことは認める。同四七年以降の同申告については否認する。その余の同申告については知らない。

4(一)  同(二)冒頭の事実のうち原告主張の土地が事業用資産であることは否認する。

(二)  同(二)(1)の事実のうち原告が本件土地(一)をその主張の日時に訴外鈴木から取得したこと、右土地付近が宅地化したこと、原告がその主張の日時に訴外会社に右土地を譲渡したこと及び土地の地目が登記簿上、田から宅地に変更されたのが昭和四三年一一月一五日であることは認める。原告が右土地を耕作目的で取得したこと、右土地を畑にして耕作していたことは否認する。その余の事実は知らない。

右土地は原告が事実上主宰する訴外会社が訴外鈴木に申込みをして原告が取得したもので、原告は入手後稲作を行なうことなく建売住宅建築用地とするため直ちに埋立てたもので後記に詳述するとおり昭和三九年から同四三年にかけて原告及び訴外会社らが市川市曽谷地区において取得し、同四〇年から四五年にかけて分譲を開始した土地の一部である。

原告は後記のとおり、訴外会社の事実上の経営者であるから、右土地の存する地域で農業が不能になることは十分認識していたもので、加えて右土地が稲作に不適当な強湿田であることを知悉しながらあえて取得したのは耕作目的ではないからであって、右土地の取得も原告主張とは異なり建売住宅建築用地とするためである。

(三)  同(2)の事実のうち、原告がその主張の日に本件土地(二)を訴外石井から取得したこと、昭和三八年一〇月一五日に田から畑への地類変換の承認があったこと、原告がその主張の場所に転居したこと及び昭和四三年二月一五日に原告が訴外会社に右土地を譲渡し、昭和四六年一〇月二二日に移転登記がなされたことはいずれも認める。原告が右土地を訴外会社に譲渡したのは転居後の住居から右土地が遠方となったので他の農地と買換えるためであるという点、昭和四六年九月九日に訴外会社が単独で分筆登記手続をしたこと及び地目変更の登記の日時が昭和四六年一〇月八日であることはいずれも否認する。その余の事実は知らない。

右土地は、別表2の物件番号3ないし10の土地とともに訴外会社に分譲用地として売り渡したものである。同社は原告から右土地を譲り受けたころ訴外石井正次、石井義忠から合計五筆の隣接地を取得しこれらを併せて分譲した。なお隣接地の取得に際し、原告所有の下貝塚所在の耕作可能な田を右石井正次に交換として譲渡している。

所得税法三三条二項一号が営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得を譲渡所得から除外しているのは、臨時的、偶発的に発生する所得は概して担税力において劣るところから、経常的・計画的に発生する所得と区別した取扱いをしているものである。右土地の譲渡は後述のとおり原告の昭和四一年ないし四四年にわたる意図的・計画的な営利活動の一環であって、そこから生ずる所得は右にいう譲渡所得に該当せず、雑所得とすべきものである。原告が仮に右土地の譲渡まで一〇年近く同土地を耕作していたとしても、それ故をもって右土地の譲渡の評価を左右するものではない。

(四)  同(3)の事実のうち、原告が訴外湯浅から別表4(一)の土地を取得したこと及び同土地が現在市街化調整区域であることは認める。原告の右土地の取得目的は否認する。訴外湯浅が右土地を田として耕作していたこと及び原告が譲受後昭和五三年まで耕作していたことは知らない。

右土地は水利が悪く多くの収穫を望めない土地であり耕作に不適であって原告においても農地の代替地として取得したものではない。

(五)  同(4)の事実のうち原告がその主張の日に訴外湯浅から別表4(二)の土地を取得したこと及び同土地が現在市街化調整区域になっていることは認める。原告が右土地を取得した後に耕作している事実は知らない。原告の取得目的は否認する。

右土地は訴外湯浅富雄が自宅建設用に購入したもので、脇にある川を拡大した際の残土の捨て場所に使用したため全く耕作には適さない土地であり、原告が農地の代替地として取得したものではない。

(六)  同(5)の事実のうち原告が訴外株式会社京浜商事から当該土地を取得したことは認める。訴外石井及び原告のその後における耕作の事実は知らない。原告の取得目的は否認する。

別表4(三)ないし(八)の土地は市川大野駅の設置が認可された大野地区に所在する土地であり、原告は昭和四一年から同四四年にかけて同地区で二三筆の土地を取得し、同地区所在の一七筆を曽谷・奉免地区所在の土地を取得するための代替地として譲渡している。原告主張の如く原告の土地取引が農業経営の主体を水稲栽培におき、かつ、農業の集中化を計ることを目的とするとしたならば、右のような取引は不合理である。

(七)  原告が本件土地(一)(二)を事業(農業)の用に供していたという一事をもってそれらの土地の譲渡による所得が当然に所得税法上の譲渡所得とされるわけではない。その譲渡が所得税法三三条二項一号にいう「営利を目的として継続的に行われる譲渡による所得」で未だ営業として事業的規模にまで至らないものについては同法三五条の雑所得に該当する。

5  同10について

(一) (一)及び(二)について

(1) 原告主張のうち、所得税法の改正経過((一)の(2))及び土地譲渡益の課税方法の変遷((一)の(3))に関する各主張、原告が摘示する内容の各通達が存在すること((二)の(2)の<1>ないし<4>)は認めるが、昭和二五年改正後の所得税法において雑所得に分類される土地譲渡益があるかどうかは同法の法文上明らかでないとの主張((一)の(4)の<2>)、販売目的以外の目的で取得した土地等の資産は、「営利を目的とする継続的譲渡」の対象とはなり得ないとの主張((一)の(4)の<3>の(ハ))及び関連通達についての主張は、次に述べるとおり、いずれも右所得税法についての原告の独自の見解に基づくものであって失当である。

(2)<1> 所得税法における所得分類は、原告が主張するとおり、昭和二五年の同法改正によって現行法と同じ一〇種類の分類を採るに至ったが、同法は、その構成上所得とは何かについての定義を置かずに(所得概念の包括的構成)所得の分類のみを定めるものであり、具体的にその所得の内容が定められている利子所得から一時所得までの各種所得に該当しない所得はすべて「雑所得」に包含されるという所得分類方法(補充的所得分類)を採っているものである。

したがって、譲渡所得あるいは事業所得のいずれにも分類されない土地譲渡による所得は、当然、雑所得に分類されるものであって、法文上これが明らかでないとする原告の主張は、所得税法の基本をあえて正解しようとしないもので失当である。

<2> また、原告は、所得税法三三条二項一号所定の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」の対象となる資産は、販売目的で取得し所有するたな卸資産ないしはそれに準ずる資産に限られるべきであって、販売目的以外の目的で取得した資産はこれに当たらない、と主張する。

しかしながら、所得税法二条一項一六号が「たな卸資産」の用語の意義として「事業所得を生ずべき事業に係る商品……」と規定していることからも明らかなようにある資産がたな卸資産に当たるか否かは、その資産の譲渡行為が事業所得を生ずべき事業として行われているか否かにかかっているものというべきは理の当然であり、原告がこれを「転売を目的として取得し所有する資産」を意味すると主張するのは独自の見解というべきである。したがって、原告が、所得税法三三条二項一号の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」の対象となる資産は、その典型である「たな卸資産」に準ずるもの、すなわち、転売目的で取得し所有する資産であると主張するのは失当である。

それのみならず、そもそも、原告が右の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」の対象となる資産は「たな卸資産」に準ずるものであると主張していること自体が原告の独自の見解であるというべきである。

すなわち、所得税法三三条二項一号は、同条一項に定める譲渡所得(資産の譲渡による所得)に含まれない資産の譲渡による所得として「たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」を定めているが、これは、「たな卸資産の譲渡」による所得を「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」の定型としてこれを独立させ、同条一項の譲渡所得に含まれない所得とし、その他「たな卸資産」の譲渡による所得でなくとも、およそ「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」と認められる限りは同条一項の譲渡所得に含まれない所得とすることを規定しているのであって、法は、「たな卸資産」といったような譲渡の対象となる資産の種類に着眼しているのではなく、「資産の譲渡」が、「営利を目的として継続的に行われる」ことに着眼し、譲渡の対象となる資産の種類を限定するものでないことは、同条一項及び二項一号の文理上からも明らかである。

そして、具体的な資産の譲渡が、営利活動に当たるか否かは、個別の事案ごとに資産の取得の状況、譲渡の態様、譲渡の回数ないし頻繁性及び継続性並びに資産繰り、広告・宣伝活動等の種々の要因を総合的に勘案して判断すべきものであり、当該譲渡の対象資産の当初の取得目的のいかんのみによって判断すべきものではない。

(3)<1> 原告は、昭和二五年の所得税法改正を受けて発せられた所得税基本通達(昭和二六年一月一日付け直所一―一「所得税法に関する基本通達について」)一五一項は、雑所得に分類される土地譲渡益の存在を明示していないから、当時の国税当局は雑所得に分類される土地譲渡益が存在するとの法解釈を行っていなかったものであるごとく主張している((二)の(2)の<1>)が、同項が雑所得に該当する所得を網羅的・限定的に列挙したものではなく、これを例示したにすぎないものであることはその文理上明らかである。既に述べたとおり、所得税法が包括的な所得概念を採っており、「雑所得」という補充的所得分類を設けている以上、譲渡所得、事業所得のいずれにも該当することは、右通達に例示されていなくともその解釈上当然のことである。したがって、原告の右主張は、いいがかり以外の何ものでもない。

<2> 右のとおりであるから、昭和四五年新基本通達(昭和四五年七月一日付け直審(所)三〇「所得税基本通達」)三五―二項が、雑所得の例示として新たにこれを示すに至ったことも、これによって雑所得の範囲を拡大した((二)の(2)の<4>の(イ))ものでないことはもちろんである。

<3> 更に、原告は、昭和四四年七月二二日付け直審(所)二四号通達(「所得税に関する当面の取扱い(譲渡所得関係)について」)の三三―三及び三三―四項は、法解釈を逸脱した違法の通達であると主張する((二)の(2)の<2>の(ロ)及び(ハ))が、同通達が違法のそしりを受けるいわれがないことは、既に述べた所得税法三三条二項一号の解釈からも明らかであるから、この点の原告の主張も失当である。

<4> また、「営利目的の継続的譲渡」に当たるか否かの判断基準は、単なる行為期間の長短のみによる((二)の(2)の<2>の(ロ)のB)ものでない。

(二) (三)について

本件処分のなされた時期及び昭和四五年新基本通達の施行日・適用時期についての原告の主張((三)の(2))は、いずれも認める。

しかしながら、本件土地譲渡のなされた昭和四三年においては、土地の譲渡益が雑所得に該当する旨を示した通達が公開されていなかったとの原告主張は、次に述べるとおり事実に反するから、本件処分が国税庁訓令違反の処分であるとの主張は理由がない。

すなわち、昭和四〇年二月二日付け直審(所)三号「所得税法に関する基本通達等の一部改正(短期保有資産の譲渡による所得、貸倒損失、貸倒引当金等関係)について」通達一四一―二〇は、「営利目的の継続的行為により生じた所得は、当該継続的行為が事業に係るものであるかどうかに応じ、事業所得又は雑所得に該当する」旨を示し、同取扱いは昭和三九年分の所得税から適用すべきものとされていたのであるから、この点に関する原告の主張は明らかに事実に反する。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一  請求原因1(一)、(三)、(四)の事実(原告の確定申告、被告の本件処分、原告の審査請求)及び同(二)の事実のうち原告が昭和四四年三月一四日別表1確定申告の項記載のとおり申告し、譲渡所得計算明細書を提出したことは当事者間に争いがない。

二  主位的請求について

原告は主位的に本件処分のうち雑所得金額の認定の違法を主張するが、前記のとおり、本件処分は、納税申告書に係る課税標準すなわち原告の総所得金額について行なわれたものであって、右総所得金額のうち雑所得金額について独立して行なわれたものではないから、本件処分のうち雑所得に対し独立した処分が行なわれたことを前提とする原告の主位的訴えは不適当である。

三  予備的請求について

1(一)  原告が、別表2記載の各物件を、同表取得欄譲渡欄記載の日時・金額のとおり取得、譲渡したこと、別表4(一)ないし(八)の土地を、原告が同表記載の相手方から買受けたこと、同表(一)(二)の土地は現在市街化調整区域内にあることは当事者に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証の七、第六号証の一、三、第七号証の六ないし一一、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第五号証の一ないし六、第七号証の一ないし五によれば、原告は、別表4記載の各土地を、同表記載の日時・金額で買受けたことが認められる。

(二)  原告は、市川市稲越、曽谷、大野、北方、柏井の各地区及び鎌ケ谷、松戸方面の土地を集中的に取得し、一方、昭和四一年から同四四年までの間前後二八回に亘り別表2及び5記載の土地を含む土地・建物を訴外会社等に売却し、それにより三億四五一五万五四二八円の譲渡益を得ていること、別表2及び5記載の各土地のうち別表2の2ないし6の土地を除きいずれも取得後短期間のうちに売却されていること、訴外会社は、昭和三九年一〇月一三日に、原告及びその同族関係者らの出資によって設立された同族会社で同社の代表取締役は登記簿上原告の義妹(現在は原告の妻)である皆川久江であったが、事実上の主宰者は原告であり、その取引高は原告の右期間における土地譲渡金額の約七七パーセントを占めていること、原告は販売した市川市曽谷所在の各土地を取得するに当たり、右土地に隣接する土地を訴外会社に同時に取得せしめ共に埋立整地したうえほぼ同時期に分譲していること、別表2及び5の各土地のうち曽谷地区の土地にあっては売却に便利な地積に分筆し各境界を確定したうえ各土地の分譲に当たっては買受人が希望すれば原告及び訴外会社が連帯保証人となって金融機関から容易に土地購入のための融資が得られるようにしたこと、曽谷地区の土地のうち別表5の物件番号1及び3ないし10の土地の分譲に当たり建売分譲用の建物の設計は原告がこれをし、工務店に一括依頼していること、本件土地(一)は、昭和四三年当時付近が宅地化しており、登記簿上も昭和四三年一一月一五日田から宅地に地目が変更されたこと、本件土地(二)は、昭和三八年一〇月一五日市川市農業委員会から田から畑への地類変換の承認がなされていることは当事者間に争いがない。

(三)  前記(一)、(二)の事実に成立に争いのない甲第一号証の三、四、第三号証の二、三、第四号証、第五号証の七、第六号証の一、三、第八、第九号証、第三一号証の一、二、第三七号証の一、四、第三八、第四六号証、第四九号証の一ないし八、第五一号証の一ないし八、第五五号証の一ないし七、第五六号証の八ないし一二、二七、二八、第六三号証の一ないし、乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三、第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし一一、第七号証、第八号証の一ないし六、第九号証の一ないし八、第一〇号証の一ないし八、第一一号証の一ないし九、第一二号証、第一三号証の一ないし八、第一四ないし第一七号証、第一九号証の一、二、第二〇ないし第二二号証、第二三号証の一ないし四二、第二四号証の二ないし四、第二五号証の二、三、第二七号証の一の二、三、二ないし五、第二八号証の一の二、三、二ないし四、第二九号証の一ないし六、第三〇号証の一、二、第三一号証の一、二、第三二号証の一、二、第四一ないし第四三号証、第四四号証の二、第五一ないし第二一八号証、第二七四号証の一、二、第二七八号証の一ないし四、第二七九号証の一ないし八、第二八二号証、農業委員会の証明部分の成立は当事者間に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四八号証の一ないし二一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四二号証、第四三号証の一ないし三、第四四号証、証人中川和夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一八、第二六号証、第二七号証の一の一、四、五、第二八号証の一の一、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三、第三五号証の一、二、第三六号証の一ないし四、第三七号証の一ないし三、第三八、第三九号証、第四〇号証の一ないし三、第四四号証の一、第四五号証の一ないし四、第四六、第四七号証、証人鈴木正孝の証言によって真正に成立したものと認められる乙第二四号証の一、第二五号証の一、証人長谷川藤吉の証言により真正に成立したものと認められる乙第二四八ないし第二五一号証、証人吉岡榮三郎の証言によって真正に成立したものと認める乙第二四七号証、前掲第五号証の一、第七号証の一、証人中川和夫、同皆川金二の各誠言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 市川市及び鎌ヶ谷市の状況について

市川市及び鎌ヶ谷市は都心に近い等の要因によって戦後急激に人口が増加し、それに伴い専業もしくは兼業農家数及び経営耕作地総面積が年々減少する傾向にあり、右傾向は昭和四〇年頃からは特に顕著化した。

(2) 訴外会社の設立と土地取得状況

右のような状況のなかで、訴外会社は、昭和三九年一〇月一三日市川市に本店を置いて、建設工事一般及び受託設計並びに工事監督又はその資金の斡旋、土地建物の分譲又はそれらの売買交換もしくは貸借の代理或いはその仲介等を目的として、原告及び当時の原告の妻であった中山ちからを取締役、右ちかの妹であり、現在は原告の妻である皆川久江を代表取締役として設立された。

訴外会社の株主構成をみると、設立当時においては原告、皆川久江、中山ちかの三名で訴外会社の持株数の七八パーセント、昭和四四年九月三〇日においては右三名で一〇〇パーセントを有している。訴外会社は建売住宅の販売を主たる営業としているが、原告は訴外会社が建売住宅建築用地を買受けるに当たって、売主との交渉に携わり、また、昭和四三年九月三〇日現在、訴外会社に対し金六七八万七三六五円の売掛金、三四八〇万六九〇円の貸付金を有し、訴外会社は右同日現在同社の借入金合計金三億九一〇四万六〇七〇円の約二四・五パーセントに当たる金九六七五万円を原告名義にて市川信用金庫宮久保支店、市川市農業協同組合から借入れ、昭和四四年九月三〇日現在では原告は訴外会社に対し金七二七九万六九二八円の売掛金、金二〇三万七三三五円の貸付金を有するほか、訴外会社の昭和四四年度の借入金合計金三億八三八七万七九三七円の約一〇・六パーセントに当たる借入れを原告名義にて前記金融機関からなしている。そのほか原告は昭和四三年に市川信用金庫と訴外会社間の「住宅用土地並びに建物購入資金融資に関する変更約定」(融資資金枠元本極度額金一億五〇〇〇万円)の契約当事者ともなり、さらには訴外会社が建売住宅を売却するに際し、購入者の資金借入れの連帯保証人にもなって訴外会社の主宰者として営業活動及び資金面で中心的な役割をはたしていたうえ、同社との取引によって利益を得ていた。

(3) 原告の生活状況について

原告は、農業を営み、市川市内及び松戸市内に広大な農地や山林を所有していた訴外中山市兵衛(以下「市兵衛」という。)の次男であり、若年のころは農業に従事し、昭和二二、三年ころから同三〇年ころにかけて、市兵衛から約一町歩の農地の贈与を受けたが、昭和四〇年ころから同四五、六年までの間に右の贈与を受けた土地の一部を譲渡しつつ、それに見合う代替地として市川市曽谷、稲越、下貝塚、奉免町、鎌ヶ谷市等所在の土地を取得して所有面積を増加させ、昭和四三年には原告が自作地として市川市農業委員会に申告した農耕地面積は昭和四〇年の約三倍、同四四年には約四倍となった。しかし、原告が自ら取得した右の土地のうち地目を田とするものの中には農耕に適さない土地や、訴外会社の分譲用地を取得するために代替地として提供した土地も相当の面積に及び、農業に供されることなく、放置されている土地もあり、原告の産米政府売渡実績は昭和三六年から昭和四三、四年の間にあまり変化はみられない。しかも原告の五名の子供のうち農業後継者にと思っていた三名も、いずれも農業には従事せず土木業に従事している。鎌ヶ谷市農業委員会は、昭和四三年に原告が鎌ヶ谷市内の農地を譲受けるについて農地法三条一項許可申請をなした際、千葉県知事に対し、原告は建設業を経営しむしろ住宅地の造成を主業とし住宅の斡旋売買をしていること、訴外会社の役員をしていること、将来営農に精進する見込みは消極であるとの理由から許可不相当の意見を具申している。

(4) 原告及び訴外会社の土地取得・利用状況について

原告は昭和四一年から同四四年までの間合計二八回土地、建物の販売をし合計金三億四五一五万五四二八円の譲渡益を得ており、この取引高のうち約七七パーセントが訴外会社を相手方としてなされたものである。

右原告及び訴外会社の土地取得状況を地域別にみると

(イ) 曽谷地域について

原告及び訴外会社が曽谷地域において取得した土地の周辺には昭和四〇年一月一八日に設立申請され同年八月一〇日に設立認可された市川市百合台土地区画整理組合による区画整理がなされ、また、昭和三七年から同四〇年にかけて隣接地において建売住宅のための土地の造成分譲が行なわれている。

原告は曽谷地域において昭和四〇年に一一八六番の二、一一九〇番の三、四、一一九二番の二ないし五の各土地を、昭和四一年に一一八五番の一、一一八九番の三の各土地を取得し、訴外会社は昭和四〇年に一一八三番の二、一一九一番の二、三、昭和四一年に一一八四番の一、一一九三番の一、昭和四三年に一一九一番の一、一一九二番の一の各土地を取得しているが、これらはいずれも隣接した土地であり、近隣には昭和四〇年ころ他業者が既に一群の住宅地を造成しており、その後昭和四一年から同四六年ころにかけて右各土地はさらに分筆されて、いずれも矩形に整然と区画整理されたうえ道路が整備され、昭和四〇年から同四三年にかけて訴外会社により配水管の布設が行なわれたほか、原告の依頼により土地の埋立ても行なわれ、昭和四三年ころには周辺部分も含めて相当数の建売住宅が建築されていた。

本件土地(一)は前記曽谷地域に原告が取得した土地の一部で、元来排水状態が悪いため耕作に不向きな土地で同年四月一九日、同年七月一九日には分筆が、同年一二月一八日には田から宅地への地目変更が行なわれている。

(ロ) 下貝塚地域について

原告は下貝塚地域において、本件土地(二)及び別表2物件番号3ないし6の各土地を石井正一から昭和三三年に買い受け、昭和三八年には市川市農業委員会から田から畑へ地類を変換するための承認を受けたものの畑としては利用することなく、昭和四三年には家屋建築のため田であった右各土地を埋立て昭和四四年から同四五年にかけて右各土地について建売分譲目的で農地転用申請をなして許可されており、また、訴外会社は右各土地に隣接する下貝塚町三一三番の一、二、三一四番の一ないし三の各土地所有者から、前記本件土地(二)及び別表2物件番号3ないし6の各土地の埋立てにより家屋の建築が予想され稲作が困難になったことを理由として土地を譲り受けてほしい旨の申入れによりいずれも昭和四四年ころに取得し、その後右各土地については建売住宅分譲用地として分筆及び区画整理がなされている。

別表2物件番号7ないし10の土地は前記3ないし6の土地と同時に一通の売買契約書で昭和四三年三月二一日に原告から訴外会社に譲渡され、本件土地(二)は曽谷地域の本件土地(一)と同時に原告から訴外会社に譲渡され、訴外会社は別表2物件番号2ないし10の土地をいずれも昭和四三年九月三〇日現在の同社のたな卸資産としている(右の事実からすると、右各土地は訴外会社の建売住宅建築用地として同社に譲渡されたものと推認することができる。)。

(ハ) 稲越地域について

原告及び訴外会社は昭和四二年から同地域において大規模な土地の取得及び譲渡を行なっており、別表4(一)、(二)の土地も原告が稲越地域において取得した土地の一画であって、別表4(一)の土地は水利も悪く雨水をたよにしなければならない土地で収穫もあまりないため原告に譲渡されたものであり、別表4(二)の土地にあっては川土の捨て場所として耕作には全く適さないもので、原告の前所有者も右土地を建物建築目的で購入したが、地目が田から宅地にならないために原告に譲渡したものである。

(ニ) 大野地域について

原告は大野地域において昭和四一年から同四四年にかけて合計二三筆の土地を取得しているが、右地域には昭和四一年九月一日の運輸大臣の認可によって国鉄武蔵野線市川大野駅が出来ることが具体的に決定しており、現在は市川市大野土地区画整理組合による宅地造成を目的とした区画整理が進行中の地域であって、別表4(三)ないし(八)の土地はいずれも右地域内に存し、原告が曽谷地域の土地を入手するための代替物件として提供されたものもある。

(四)  以上のとおり認められ右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、甲第三三号証の二ないし四は乙第二六号証、第二四七号証、にてらして採用できない。

2  右1の事実を総合すれば、原告は昭和四一年から同四四年までの間一応農業は営んでいたものの、訴外会社の主宰者として同社と一体となった土地の売買、建売住宅の分譲に活動の中心を置き、これによって多額の利益を得ており、別表2記載の各物件は原告が営利を目的として継続的に譲渡した土地の一部として訴外会社に譲渡したものであり、別表4記載の各物件も宅地造成して分譲するため或いは、原告が建売住宅建築用地を取得するための代替地として原告が取得した土地であるということができ、以上の説示に反する原告の主張は、採用できない。

なお、別表2物件番号2ないし6の各土地は、原告が昭和三三年八月及び一二月に取得し、昭和四三年二月及び三月に訴外会社へ譲渡されたもので、その間一〇年近く原告が右土地を保有していた事実があるが、かかる事実は、右土地の譲渡は原告の営利を目的とした継続的譲渡の一環であるという前記認定を左右するものではない。

従って、別表2記載の各物件の譲渡は原告が業として行なったものではないが、営利を目的として行なわれたものであるから、これによる所得は、所得税法三五条にいう雑所得に当たると認められる。原告の昭和四三年分の他の所得については当事者間に争いがなく被告が右と同一の見解のもとに右所得には措置法の適用がないとして原告に対してなした本件処分は適法であり、原告の予備的請求は理由がない。

四  結論

以上の次第で原告の主位的請求は不適法であるからこの訴えを却下し、予備的請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井眞治 裁判官 藤村眞知子 裁判官 小野洋一)

別表1

昭和43年分の課税の経緯等

<省略>

別表2

昭和43年分の被告の主張額(土地の譲渡に係る雑所得の金額)の計算明細

<省略>

(注) 物件番号3ないし10の物件に係る所得金額63,688,200円は、昭和43年分の原処分の額及び裁決額にはそのいずれにも算入されていない。その結果、昭和43年分の土地譲渡に係る雑所得の金額76,806,200円は、原処分の額及び裁決額のいずれもが13,118,000円となっている。

別表3

昭和43年分譲渡資産表

<省略>

(凡例 ○認める。 △不知。 ×不認する。)

別表4

昭和43年分買換資産表

<省略>

別表5

昭和44年分の原告の土地譲渡一覧表

<省略>

<省略>

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